某国立大学・阿部研究室のブログ。ビジネスのコミュニケーションのことを、週1回ぐらい書きます。
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書評--小森陽一『心脳コントロール社会』(ちくま新書)
参議院選が終わって、ふとある書物のことを思い出しました。小森陽一『心脳コントロール社会』(ちくま新書)です。
この本の内容をかいつまんで言えば、大凡次のような感じです。 ・「それと気づかれないまま、人を特定の方向に誘導するマインド・マネジメント」は強力である。 ・ブッシュ政権も小泉自民党も、その手法を用いている。 ・我々は、それらに対して用心しなければならない。 この要約で、著者の主張の方向性は理解していただけたかと思います。 しかし、現状を考えてみましょう。ブッシュ政権の支持率は落ちて、先の参院選も自民は大敗です。要するに、小森氏の本は何かが間違っているのです。 第一に言えることは簡単です。小森氏が警告するほどには、無意識に働きかけるマインド・マネジメントは強力ではないということです。先の参院選で言えば、役者(小泉→安倍)が違えば、いくら裏方(世耕氏)がマインド・マネジメントしようと頑張っても無理というわけです。 しかし、小森氏の過大評価は、ある意味、マーケッターやコミュニケーションの専門家には、かえって有り難い話です。こんなに過大評価してくれるお陰で、その筋の人たちは働き口があると皮肉な見方が出来るかもしれません。 ただ、小森氏が妙に左寄りの主張なのがいただけません。たとえば、これだけ小泉やブッシュを悪魔のように扱いながら、北朝鮮に対しては弁護の記述(190頁等)が目立ちます。 小森氏は、『戦争プロパガンダ10の法則』という本を引いて、時の権力者が国民たちを欺いて戦争をいかに起こすかを説明し、我々に警告しています。たとえば、「敵の指導者は悪魔のような人間だ」(第三条)、「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」(第六条)、「この正義に疑問を投げかけるものは裏切り者である」(第十条)等と、戦争を肯定化するために国家は主張するとのことです。しかし、この警告は、そっくりそのまま小森氏自身に対しても当てはまるのではないでしょうか。 もちろん、小森氏が武力行使を用いた戦争をするとは思いません。が、この本を読むと、小森陽一という知の権力者が、左翼的主張を守るために戦争プロパガンダと同じような態度で居るように私には思えます(知の世界での「戦争」です)。そうした態度が現実を歪曲化する一因になっている(つまり資本主義を悪魔の制度のように扱い、暗に共産主義的な社会を理想化している)のではないでしょうか? 小森氏は、最後に「マス・メディアや政治プロパガンダが垂れ流す情報を決してそのまま鵜呑みにしないことです」と述べています。これには賛成です。しかし同様に、左翼系(多分右翼系も)の色が付いた研究者の主張を鵜呑みにしないことも大切でしょう。 とは言うものの、ザルトマンを中心とする無意識のレベルを中心にしたマーケティング研究をまとめる手腕は流石です。この辺りをあまり知らない人には、知識を得るのに役に立つでしょう。また、繰り返しになりますが、「学者のウソ」(直接的ウソは確かにありませんが)の一例として参考になるのではないでしょうか。 ※お勧め度=2
by choimaji
| 2007-08-02 23:01
| 本
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